「周辺の井戸水から有害な物質が出ているとか、呪われた土地で訪れると不幸になるとか。言いがかりなのはわかっているけれど信じる人もいるの。それに、この辺は観光地だから悪い評判はすぐに客足に影響する」

確かに、嘘でも本当でも人のうわさは商売に影響を与える。
実際祖母の旅館も、かなり経営が苦しくなっていた。

「今回の火事だって、保険金目当てにわざと火をつけたんじゃないかって言う人もいて」
「そんなわけないじゃないですか」

あまりの言葉に、さすがの柚葉も思わず遮った。
祖母が長年にわたって大切に守ってきた旅館に火を付けるなんてありえないし、これは完全に言いがかりだ。
でも、ここに集まった人たちだって商売に影響が出て困っている。
それがわかるだけに、柚葉は怒る気持ちにもなれなかった。

「とにかく何か手を打たなければこの街が衰退してしまうんだ」
「ええ、そうですね」

柚葉も不安は感じているが、今はまだ先のことを考える余裕がない。

「一度女将さんに話をしてみてくれないか？」
「わかりました」

そんなに大きくもない温泉街で共に旅館や商店を営んできた仲間達の切実な思いに、柚葉は深くうなずいた。