子供の頃から学校が休みになる夏休みや春休みや、年末年始の休みには祖母の家に来ていた。
旅館を営む祖母はいつも忙しくてなかなか遊んでくれる時間はなかったが、柚葉も一緒になってお手伝いをするのが楽しみだったし、お手伝いに疲れると旅館の廊下の片隅で静かに本を読むのが柚葉にとって幸せな時間だった。
あの思い出があるからこそ柚葉は祖母の後引き継ごうと思ったのだし、自分が過ごしたのと同じ穏やかな環境で莉奈を育てたかった。
しかし、祖母があれだけ大切にしていた旅館は火事によりしばらく休業することになりそうだ。
いくらボヤ程度とはいえ修理も必要になるし、そもそも原因がはっきりしなければ営業を再開することはできない。

ーーー困ったわね、一体どうなるのかしら。

この先のことを考えると、柚葉は不安に押しつぶされそうだった。