笛もなく、月もない。

そんな夜なのに。

私と雅之様は、それから朝まで話し続けました。

朝など来なければいいのに。

東の空が白み始めると、私の心が疼きます。

「もう、帰らないと」

どうしても、もう帰らないといけません。

私は獣なのですから。

太陽の下で堂々と、人と仲良くすることなど決して許されないのです。

「貴女がそこまで仰るなら、月姫。

私は貴女に従います」

最後の最後まで、雅之様はそう言うと、そっと名残惜しそうに私の頭に唇を落として私を地面へと戻してくださいました。



あれは、雅之様の腕に抱かれた、最初で最後の夜でした。

同じ夢は二度とは見れないものなのです。

それでも私は、毎夜毎夜、この河原に雅之様の笛の音が響くことを楽しみにしています。


平安の都の夜に響くとびきる素敵な笛の音は、誰のためでもなくそう、私、月姫と名づけた狸を想って、雅之様が奏でてくださるものなのです。



【了】