「あなたは本当にお優しい。

まるで、月の妖精のような姫君ですね」

月姫、と。

雅之様はそう名づけて、また、にこりと微笑んでくださいました。

どうしましょう。

私の心臓はとろんと蕩けてしまいそうです。

このまま、闇夜に蕩けてしまいそうです。

「貴女がここに来られる限り、私もここで貴女のために笛を奏でましょう」

「今までと同じように、ずっとずっと、お待ちしております」

「今までもずっと、聞いていてくださったのですね」

ありがとうございます、と、雅之様の声が優しく耳に響きました。


あまりにも当然のように、ずっとそのように話されていたので、それが不自然なことにすら私は気づきませんでした。

雅之様は、獣である私に向かって、ただひたすら姫君に話しかけられるような優しい言葉を使い続けて下さっているのです。