【短編】恋は月夜に舞い降りる【砂糖菓子より甘い恋-

昨日とは違う、真っ暗な世界で。

残ったのは私と、雅之様。

ただ、二人。

いや、この場合は一人と一匹、と称さなくてはいけないのでしょうか?

彼はただひたすら優しく私の背中を撫でていてくれます。


「今日は生憎笛を持たずに参りました。

申し訳ありません」

優しい声は、笛の音のようにそっと私を包み込んでくれます。

だから、笛などなくても平気なのに。

私の声は、もう、言葉に出来ません。

あれは、月の光が私にくれた、小さな小さな奇跡だったのですから。

「きゅん」

私の言葉は、人間にはそういう鳴き声にしか聞こえないはずです。

なのに。

「そうですか……。

それは良かった」

あの方は、まるで私が何て言ったか分かっているかのように、優しく答えてそう微笑まれました。