「やっぱり雅之のことを好きになるお姫様って、雅之並に奥手なのね」

毬が余計なことを口走る。
龍星はその隣で、紅い唇に白く細い指を当て、何事か思考を巡らせているようであった。

「忽然と、というのは。
牛車や人力車もその辺にはなかった、ということか?」

「ああ、そういうことだ。
せめて名前だけでも聞いておけば手がかりが掴めたのだが……」

がっかりしている雅之を放って置く訳にはいかない。

「今日は昨夜と違い生憎の曇り空だが、そこまで行ってみるか?」

龍星が言う。

「まさか昨日の今日であの姫君は来ないだろう」

雅之が首を振る。

「私、行くー!!」

何故か一番張り切っているのが、当事者でもなんでもない、が、家の中でゆっくりしていることより外を走り回るほうが大好きな、じゃじゃ馬姫の毬であった。