あの方の奏でる笛の音(ね)に私は今宵も誘われ、あの河原へと急ぐのです。

都の闇はいつも深くあの方の姿ははっきりとは見えないのですが、なんと今宵は満月で私は初めてあの方のお姿を仔細に拝見することとなりました。

柔らかい笛の音に似つかわしくないほど、精悍な顔つきをしていらして。

私は思わずはっと息を呑み、それがあの人に聞こえてなければ良いがと慌てて口を押さえました。

しかし口を塞いだところで、いつもより早く鳴り響く鼓動は抑えることも叶いません。

それでも。
私には時間が無いのです。

夜の演奏会の時間は、とても短い。

それを知っている私は、諦めて唯瞳を閉じて、いつものようにあの方の笛の音に集中することにいたしました。