日も落ちてすっかり暗くなった空の下、私がかつて暮らしていた寮は当時と何も変わらず、ただそこに佇んでいた。
何度か昼の時間帯に雫を訪ねてここに来ていた私でも、どういうわけか懐かしさを今、改めて感じているのはきっとこの夜のあかりの灯る寮の姿が“帰ってきた”感覚を思い起こさせるからだろう。
「懐かしい……。」
先にそう呟いたのは胡兎の方だった。
「寒いし、早く中に入ろ。」
大きな両開きのドアの鍵を開け、玄関に足を踏み入れた。
ここから先も、まだ土足で歩くスペースになっていて、個室に入室してから靴を脱ぐようになる。
弱々しい白い光をうっすらと放つ蛍光灯の下、狭い廊下を胡兎と並んで二人で進んでいく。
雫はここに帰ってきて、この廊下を今はいつもひとりで歩いているのかと思うと、また置いてけぼりにしてしまった感が沸いてきて、やるせない気持ちになった。
