「ヨーイ……アクション!」
─────カチンッ。
いつの間にか準備は整っていて、監督の掛け声とカチンコの音に私ははっとする。
そしてそのカチンコの音を合図に、機材を動かす音やスタッフの話し声も、全てのざわめきが消え去り、静寂に包まれ───。
次の瞬間、響香の良く通る声だけがこの空間に響き渡った。
「従わなければ私に手をあげる、と言うのならどうぞ!それでお父様の気が済むのなら…。」
父親役の大御所俳優に対して、少しも怯(ひる)むことなく凄んでみせるその顔は、私が初めて見る女優、鳴海響香の表情で、このシーンがまるで現実に存在する人物のリアルなやり取りなのだと、思わず錯覚してしまう。
そのくらい、迫真の演技だったという事。
だけどこの時、私は思った。
響香は仕事以外で今の演技のような表情を、私以外の誰かに、見せているのではないのだろうか?
ふと、そんな気がした。
