「じゃあ…行ってくるね。」
そう言って小さく手を振ってから私に背を向け、これからドラマのシーンで使用する為のセットに小走りで向かう響香。
その後ろ姿から感じたのは、“どうしても、女優である今の私を見ていて欲しい”という強い思い。
こんな事は本当に突然で、これまでは仕事をする自分と、プライベートで親友の私と一緒にいる自分は完全に切り離したい…そういう体(てい)でやってきた響香が、なぜ今、そういう振る舞いになるんだろう?
何か心境の変化があったのか…。
私は初めて見るドラマ撮影の現場や、これまでは知らなかった女優としての響香の姿に心を揺さぶられて、思考がぐるぐると駆け巡り、なんだか興奮状態になった。
「───鳴海響香さん、入ります!」
スタッフに促されて、家の中のひとつの部屋を模したセットの中に消えたかと思うと、照明さんがライトを当てているその一角に、すぐに響香は現れた。
