忘れられぬにおい


最後まで読んで泣き崩れそうになるわたしを母親が抱きとめた… わたしと一緒に泣きながら、ずっとわたしに『ありがとう… ありがとう…』と言っている声が聞こえていた

「薫人《ゆきと》は結香さんと出会えて幸せなまま逝くことができた」

父親は自分たちにも言い聞かせるように話しかける

「遺されたものは確かにツラい… だけど薫人の分まで生きなくてはとわたしは思っています」

「結香さん、薫人に幸せを…ありがとう…」

そう言って頭を下げた父親はそのまま顔を上げられず泣いていた…


「それでは御暇《おいとま》します また手を合わせに伺ってもいいですか?」

帰り際にわたしは両親にこれからも手を合わせに来てもいいかをたずねた

「私どもは一向に構いませんが、結香《ゆいか》さんはまだお若い、いつまでも薫人《ゆきと》に縛られず前を向いて進んでほしいです」

父親の言葉に母親も頷いていた

「温かいお言葉ありがとうございます それでも、それはそれ、これはこれです わたしにとって薫人は薫人しかいませんから」

なぜだかあれ以来初めて笑顔が出ていた
両親も不思議と微笑んでいる

「それでは、失礼します」

そう言って玄関を出ていくわたしに両親は

「ありがとう」

と頭を下げ見送ってくれた