忘れられぬにおい



「この度はわざわざ遠いところからありがとうございます」

両親は丁寧な挨拶で わたしを出迎えてくれた
部屋に通され遺影にお線香をあげ手を合わせる
突き付けられる現実に意識が遠くなりそうになるのを堪える
両親の気持ちを考えると その目の前で悲劇のヒロインになりたくなかった


「じつは、薫人《ゆきと》の遺品を整理している時に鞄の中から手紙とプレゼントのような包みが出てきたもので…
わたしたちにはそのお名前が誰なのか見当もつきませんでしたが芳名録を確認したところ 封筒に書かれている『結香』と一致するお名前を見つけてご連絡させていただいた次第でして…」

わたしあてに!? 当日は会う約束をしていたので薫人がプレゼントを持っていたとしても不思議じゃなかった

「どうぞ、お納め下さい これはきっと薫人《ゆきと》があなた様へ渡したかったものに違いありません」

両親から手渡された封筒とプレゼントを見てわたしは泣き崩れた… 両親の手前ぜったいに泣かないでいようと誓ってここまできたわたしの決心は案外あっさり崩れてしまっていた

泣き崩れるわたしを両親は優しく介抱してくれた
わたしにつられて母親が涙を流してるのを見て わたしは我に返る… ここにいる誰もが哀しんでいる
薫人のことが大好きな人しかここにはいない
そのことに心強くなったわたしは両親に薫人との関係を話し始めた

誰も涙を隠そうとはしなかった
嗚咽の声が漏れていた…