名前も知らない貴方とだから恋に落ちたい





サラッと右腕から手が離されて、前のめりになっていた好青年の姿勢も元に戻ってしまった。


突き放したのは私なのに、すんなり離れてしまったのが寂しい。





「あの…」


「ん?」


「仕事だから帰らなきゃいけないんだけど…、でも。楽しかったから、あっという間で。だから…」





言いたいことも素直に言えず、モゴモゴと言いながら助手席に座ったまま、降りられずにいる。


そんな私の鈍臭い言動に、好青年はついに笑い出して、私の手を引っ張った。




「…うわっ!」




運転レバーを挟んで、好青年に抱きしめられた。


寂しさが一気に消えて、温かさが体を包む。




「まだ居たい?」


「いや、その…。うん」




代わりに言われてしまったけど、言いたかったのはそれ。


寂しいから、まだ一緒に居たくて、好青年の背中の服をギュッと掴んだ。



十時間ほど時間を過ごしたはずなのに、足りないの。




「お恥ずかしい限りです」


「そんなことない。俺は嬉しい。ニヤけが止まらない」


「え、ニヤけてるの?どんな風に?」


「見るな!ダメ!」


「なぁんで!」