名前も知らない貴方とだから恋に落ちたい





目の前に居る、実在している。


それだけで安心できた。




でも涙は止まらない。




「…夜中にコーヒーは、良くないですよ」


「そう?」


「カフェインは夜に摂らない方が良いです。違うものを買いましょう」


「じゃあ、おすすめ教えてください」


「…水、です」


「水か(笑)じゃあ俺が買うね」





頬から手が離れると、滑らかな動きで自販機にお金を入れて、水のボタンを押して取り出した。





「コーヒーと半分こ、しない?」


「半分こ」




私が漕いできた自転車の籠に、私が買ったコーヒーと好青年が買った水を入れて、自転車を押してもらって前に座った駐車場まで歩いた。


会話はなく、二人の距離感も付かず離れず。




手を伸ばせば好青年の服を掴めるけど、また困らせてしまうから、やらない。





自転車は柵に立てかけて、二人並んで車輪止めに腰掛ける。


バレないようにほんの少し、好青年の方へ寄って座ってみた。




好青年から水を受け取り、半分こするコップがないなと考えていると、缶のプルタブを開けてそのまま口をつけて飲み出した好青年。





「えっ、半分こ…」