名前も知らない貴方とだから恋に落ちたい







今、私はどこに居るんだろう。


自転車のペダルを漕ぎ過ぎて、足が足じゃないくらい思うように動かない。




自転車に跨ったまま、唯一家から持ってきた携帯の画面を明るくして現在地を検索すると、岡山県倉敷市と出た。





「足が棒になるわけだ」





隣県の福山市から自転車をひたすら漕いで、足の感覚がなくなってきた頃に、目の前に広がる絶景に目を奪われた。





〝息を呑む〟




そんな大袈裟な言葉、ただの比喩でしかないと思っていた。


まさか私に、息を呑む日がやって来るなんて。





強い光に照らされた四角い建物が隙間なく建っていて、所々に一際高く目立つ煙突からは、白い煙がモクモクと上がっている。



周りが真っ暗だと、強い明るさが輝いて見える。


この絶景に名前があるのか知らないし、夜中に仕事をしてくれている人たちが居るから、この景色が見られるんだと思うと、さらに感動が増す。