君が最愛になるまで

千隼くんが連れてきてくれたのは会社の近くにある少しオシャレな居酒屋だった。
大人が集まるようなオシャレな場所で、私たちが案内されたのは半個室になった席だ。


向かい合うように座り、千隼くんが慣れた手つきでいろいろメニューを注文してくれた。
お互いビールを頼み、1番最初に運び込まれてきたためグラスを合わせて乾杯をする。


何を話せばいいか分からず無言でいると、目の前に座る千隼くんがクスッと笑った。
不思議に思いキョトンと彼を見つめると口角を上げてほんのり微笑みかけられ、不覚にもドキッと心臓が高鳴る。


「随分綺麗になったな紬希」

「まぁ、最後に会ったのは14歳だったからね。成長したの私も」

「今いくつになった?」

「24だよ」

「立派に大人になったのな」


久しぶりに交わす会話は上手く話せているだろうか。
彼に向けて私は上手く笑えているだろうか。


緊張してしまって心臓の音が聞こえないか心配になる。
そんな私をよそに千隼くんは余裕そうに微笑んでいた。


「私のこと、覚えてたんだね」

「当たり前だろ。幼なじみなんだから」


千隼くんの口から零れたその"幼なじみ"という言葉がひどく私の心に響く。
切なくもどこか嬉しい気持ちもあって、複雑な心境になってしまう。


まるで毒のように蝕んでいくその幼なじみという言葉が私の心に小さな影を落とす。
何気ない言葉だし、特別な意味を持っているにも関わらず私はもっと、と更に求めてしまっていた。


「大学行ってからほとんど連絡取らなくなったよね」

「だな。こっちも忙しかったりいろいろあったんだ」

「そっか。千隼くんもこういうお仕事してたのには驚いた」

「そうか?紬希と話した気がするけどな。こういう仕事に就きたいと思ってるって。そしたら私もって言ってたろ?」

「⋯⋯覚えてたんだ⋯」


私だけが覚えている内容だと思っていた。
だけど千隼くんもまたそれをしっかり覚えてくれていたんだ。


それが知れるだけでこんなにも嬉しいなんて。
千隼くんの言葉1つで私の気持ちは大きく乱される。


「私も、その会話覚えてて、だからこういう仕事に就いたんだよね」

「ならお互い有言実行だな」


ビールの入ったグラスを片手に千隼くんは喉を鳴らしながら流し込んでいく。
お酒を流し込む度に規則正しく動くその喉仏がやけに色っぽい。


私の記憶は高校3年生の千隼くんで止まっていたため、未だに目の前にいる彼が千隼くんであることに慣れなかった。
急に成長したように感じてしまい、緊張が先行してしまう。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか千隼くんは余裕そうにお酒を口にしていた。
緊張から逃れるために私もビールをグビっと飲み干す。


「なんか紬希とこうして酒飲むことになるなんて感慨深いな」

「⋯何年も月日が流れたもんね」

「俺の知る紬希はまだ子供だったのにな」


今千隼くんは私の昔を思い出しているんだろう。
幼なじみとして彼の背中を追いかけていた中学生の私を。


「千隼くんはずっと何してたの?大学入ってから、何してた?」

「⋯⋯特に何も。普通に大学通って卒業して就職した」


私の質問に対し一瞬だけ間が空いたことを私は見逃さなかった。
まるではぐらかすようにのらりくらりと答えるその様はこれ以上聞いてくるな、と無言で言われているようだ。


千隼くんが何かを隠したがっているのは明白なのに、それを聞くことは許されない。
久しぶりに会った私に話すような内容じゃないのかもしれない。


「紬希は?何してた?」

「私も千隼くんと同じ。大学行って卒業してこの会社に就職した」

「似たようなもんだな。紬希彼氏は?俺、普通に誘ったけど大丈夫だったか?」

「うん、その心配はないよ」

「そうか。なら大丈夫だな」

「⋯⋯千隼くんは?彼女、いないの?」


千隼くんが聞いてくるのであれば私だって聞くのはおかしくない。
それを答えてくれるかは別として、私だって会えなかった間の千隼くんを少しでも知りたい。