君が最愛になるまで

こんな最低なことをしていた俺が紬希の隣にいていいのかとも考えた。
だけどそれ以上に紬希の隣を誰にも渡したくない。


それは幼なじみとしてじゃなく、1人の男として紬希の隣に立ちたいと思うんだ。
この気持ちをきっと世間では恋というんだろう。


「俺も紬希が好きだ」

「っ!」

「だから思い出にするな。俺のこと」

「⋯⋯千隼くんが私の事好きなんて、信じられない。こんな風になるなんて考えてもいなかったもん」

「うん、信じられないと思う。簡単に信じてもらえるとは思ってない。それなりのことしてきたし。だけどこの気持ちが恋で紬希が好きだって伝わるまで何度だって言うから」


紬希に対して抱くこの特別な感情の名前を見つけた俺は、もう手放したくないと思う。
身近な人間に裏切られたけど、紬希なら信用できるって思えたんだ。


テーブルの上に置いた紬希の小さな手の上にそっと指を重ねた。
ビクッと震えたが初めて紬希は拒否することなくそれを受け入れてくれる。


「もうバカなことしない?」

「2度としねー。ごめん最低なことして」

「うん⋯嫌だったすごく。でも彼女でもないしそんなこと言える立場じゃないから」

「紬希を悲しませるようなことこれからはしないから。だから俺の彼女になってくれ」


紬希はまつ毛を伏せて1度視線を逸らすと小さく微笑んでいた。
そして真っ直ぐ俺の瞳を見つめたかと思えば、ゆっくりを口角を上げて目を細めとても綺麗に笑う。


(あぁ⋯すげー綺麗だ)


「私の気持ち生半可じゃないからね。裏切ったりしないから信じていいよ私のこと」

「その言葉を信じてる。俺は紬希の言葉なら信じられるから」


紬希の小さな手をぎゅっと握ると彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
その笑顔が可愛くて無性に抱きしめたくなる。


だけどここは居酒屋で公共の場のためその欲求をグッと抑え込む。
本当は今すぐにでも抱きしめて腕の中に閉じ込めたい。


「紬希。明日休みだよな?」

「そうだよ」

「今日俺の部屋来るか?」

「えっ⋯⋯」


言葉にせずとも俺の気持ちが伝わったのか紬希の顔はまるで茹でダコのように真っ赤に染まった。
この可愛い表情をもっと見せて欲しい。


「いきなりすぎた?」

「⋯⋯あの日、誰にでも抱かれていいなんて思ってないって言ったの覚えてる?」

「覚えてる」

「好きな人で彼氏なら、私はそうしたいって思うよ」


思わず俺は紬希の頬に手を伸ばしていた。
そのまますべすべな柔らかい頬をそっと撫でる。


「なら紬希のこと連れて帰る」

「うん」

「今日は帰さねーから」

「⋯イケメンが言うと様になるね」

「余裕かよ。そんなこと言ってられなくしてやるからな」

「お手柔らかにお願いします」


大切な幼なじみが特別な彼女になった今日は金曜日。
俺は金曜日が嫌いだった。


嫌でもあの日を思い出してしまうし、毎週金曜日が来る度にそのクソみたいな思い出をかき消すように新しい最低を積み重ねていた。
だけど紬希と再会して、紬希と金曜日を過ごす度に考えが少しづつ変わっていったんだ。


紬希と過ごしていくうちに少しだけ金曜日が来ることが楽しみだと思えるようになった。
今までは毎週のように蘇っていたあの日の出来事が、不思議と思い出さずにいられた。


きっと今度は大丈夫。
これから少しずつ俺は紬希と時間を共有し歩いていくんだ。


紬希は俺を裏切らずにずっとそばに居てくれる。
そう俺は信じて紬希の手を取った───。