君が最愛になるまで

紬希(つむぎ)。ごめん、別れよう」

「⋯⋯⋯」


いつものようにデートに来たと思っていた。
CGデザイナーとして働く私の会社はフレックスタイム制を取っているため、休みは合わせやすい。


土日休みが多い彼、和樹(かずき)とも、私の職種上合わせやすかったため時間が作れなかったという訳では無い。
それだと言うのに目の前に座る彼は悲しそうに私の顔を見つめてその言葉を紡いだ。


1年ほど付き合った彼と順調に関係を築いていたと思っていたのは私だけだったようだ。
これから楽しいデートが始まると思っていた私の気持ちは一気に冷め、指先が冷たくなるような気がした。


(おかしいな⋯寒いわけないのに)


季節は8月、夏真っ只中だというのに指先がどんどん冷えていく。
テーブルに運ばれてきた美味しそうなパスタでさえ、色味を失ったように見えて仕方がない。


「えと⋯和樹。理由を、聞いてもいいかな?」

「⋯言わなきゃ分からない?紬希だって分かってるんじゃないの?」


何度も好きだよと囁いてくれた彼の言葉からはもう愛情を感じることができなかった。
こんなふうにさせてしまったのは私のせいだ。


「俺はさ、紬希のこと好きだったよ」

「⋯⋯」

「本気で好きだった。大切にしてた」

「うん。伝わってた⋯」

「だけど紬希は違ったよね。俺のこと好きだった?」


彼からこぼれる言葉たちは全て過去形で、本当に私のことを過去にしようとしているようだった。
普段より食事のスピードが早いと思ったんだ。


それは早く食べ終えてこの場から去るための行動だったんだろう。
私は和樹になんてひどいことをしてしまったのだろうか。


好きだったかと疑問形で聞かせるほど、私は彼に気持ちを伝えていなかったのかと、頭を鈍器で殴られたような気分だ。


「和樹のこと好きだったよ。私も」

「でも、その好きって同情とかじゃなかった?俺が好きって言うから、それに応えないとって、そういう気持ちじゃなかった?」

「⋯⋯⋯」


何も言い返せなかった。
少なからず、彼の言うことがどこか正しいと認めてしまっていたからだろう。


私は和樹からの好意が嬉しく思っていたし、それに応えたいと思った。
その応えたい気持ちが彼にとっては同情と捉えられてしまったんだろう。


「紬希と付き合ってる間、紬希は俺を見てない気がした」

「⋯⋯⋯」

「付き合ってるのは俺なのに、紬希の心には別の人がいるみたいな、そんな感じ」

「それは⋯⋯」

「俺のこと、見てなかったよね?」


いつの間にか運ばれてきた料理は冷めてしまっており、皿の端に付いたパスタソースは既に固まっていた。
それ程までに時間が経っていたようだ。


いつからそう思わせてしまっていたんだろう。
いつから和樹を不安にさせてしまっていたんだろう。


「あの⋯ごめん、私⋯⋯」

「謝らないでよ。ますます惨めになる」

「⋯⋯」

「俺は紬希の1番にはなれなかったみたいだ」


目の前で私を見つめる彼の視線は最後まで甘くて、私を好きだと言ってくれているようだ。
こんな時にまで彼は私に優しい。


初めて私は気づいたのかもしれない。
彼が本気で私を好きでいてくれたことに。


「紬希。今までありがとう」

「⋯⋯」

「幸せになって欲しい。心から大切だと言い切れる人と一緒に」