君が最愛になるまで

***


「あのさ!なんで一方的に電話切るわけ?会話できないの?」

「悪い、そんな怒るなって」

「怒るだろ普通!俺じゃなかったら嫌われてるからね」


目の前でキャンキャン犬のように吠えるこの男は大学で出会った親友の1人だ。
卒業してからもこうやって会うことの多い人物で気兼ねなく連絡ができ、突然の呼び出しも大体こうして来てくれる。


グチグチ言うことはあるがなんだかんだ優しい性格のこいつが俺は羨ましいと思うことがあった。
明るめの茶髪の髪にはパーマがかかっており、通った鼻筋や高身長さからかなりモテる男だ。


(こう)、今日は俺の奢りだから」

「当たり前だろー。千隼の奢りじゃなきゃ割に合わないです〜」


いつもの場所というのはこの岸本洸(きしもとこう)とよく会う居酒屋だった。
お酒の種類も多く、何より料理が美味しいため俺たちはよくここでいろんな話をしながらお酒を飲んでいる。


目の前に座る洸はブツブツ言いながらタブレットを覗き込み料理をこれでもかと順番にカートに入れていた。
その様子を見ているとさっきまでのザワつきが少しずつ収まっていくのが分かる。


「で、そのほっぺはどうしたわけ?殴られた?」

「⋯⋯分かるか?」

「分かるっしょ。赤いよ」


左頬を撫でると未だに熱を持っていて洸の言う通り赤いんだろうなと想像させた。
洸は大学4年間を共に過ごしたため大学生活で起こった全てを知る人物だ。


だからこそ気兼ねなくこうして呼び出せるし隠し事をすることなく全て話せる。
洸のことを気に入っているのはどことなくその真っ直ぐさが紬希に似ていたからなのかもしれない。


「ほんとは誘われてデートにでも行こうと思ってた。でも気分が乗らなくなって断ったら殴られた」

「いやそりゃそうでしょ。OKしておいて突然断るとか最低野郎だなほんと。可哀想だよその子が」

「⋯悪いことしたとは思ってる」

「けどなんで?体調悪いとか?気分で断るって千隼よくしてたけど、いつもと同じ理由?」

「体調は悪くない。気分、なのかな。なんかよぎるっていうか⋯」


言い淀んでいるとお酒や食事が続々と運び込まれてきた。
あっという間にテーブルの上はいっぱいになる。


(どんだけ頼んだんだ洸のやつ)


「さてまずは食べようぜ〜」

「俺の奢りだからそれは俺のセリフだろ」

「細かいことは気にすんなって」


うまそ〜と言いながら洸はテーブルに広がる料理を取り皿に分け、大きな口でどんどん頬張っていく。
美味しそうに食べる姿を見ていると奢り甲斐がある。


「最近変わったことはないの?ほら、転職したでしょ、そういうので環境変わったとか」

「⋯⋯⋯」

「思い当たる節あるんじゃん、その顔は」


思い当たることと言えば紬希の存在だ。
紬希と再会し、懐かしいあの子の真っ直ぐな言葉や気持ち触れ始めたことが大きな変化だと思う。


それ以外思い当たることがないし、何も変えたことはない。
だとしたら紬希の存在が俺に何かしらの変化をもたらしたということだろうか。


「大学入ったばっかの時に俺の幼なじみの話したの覚えてるか?」

「あ〜確か5つ下の女の子だっけ?弟もいんだよね」

「そう。その幼なじみと再会した」

「え、何それ!運命の再会ってやつ?」


洸は目を輝かせながら前のめりに俺の話を聞いている。
多分俺は気を抜けば口は悪いし、洸ほど愛想がいいわけでもない。


だけど洸はそんな俺の話をいつも飽きずに最後までちゃんと聞いてくれる。
洸の前ではだいぶ気が抜けていると思うが、それだけ信頼している証だ。


「今日行こうとした女に言われたんだよな。夜過ごす相手に選んだのはその幼なじみじゃなくて私なんだって。それは特別って言うんだって」

「ん〜まぁ価値観って人によって考え方が違うから。みんながみんな千隼みたいに感情のない接触は全て無意味でーすみたいな風にはいかないわけよ」