そう言ってふわりと微笑んだ要くんは私の頭をぽんっと撫でた。
突然の行動にポカンとしていると要くんはぷはっと声を出して笑う。
「キョトンてしてるね」
「だって撫でられるなんて思ってなかったから」
「紬希ちゃんが言ったからだよ」
要くんの言葉の意味を分からず思考を巡らせているといつの間にか私たちの元に1人の人物がやって来た。
それは焦げ茶の短めの髪を整えてラフなジャケットを羽織り、チラッと見えるピアスからは大人な色気が漂う私たちのチーフ。
「──紬希」
「えっ?!」
「ん?」
この場にいる私だけじゃなく要くんも、そして千隼くんが私の名前を呼ぶ声を聞いた周りにいた同僚も全員が同じ顔をしている。
この会社で私のことを"紬希"と呼ぶのは1人しかいない。
千隼くんは私の名前を呼ぶとそのまま真っ直ぐ瞳を覗き込むように見つめてきた。
少し遠くでデザイナーと話していた真夏ちゃんもまた目を見開き固まっている。
「あの、えと⋯⋯なんでしょう?」
「よそよそしいな。普通に話していいんだぞ」
「っ!」
「えーと⋯早乙女さんと紬希ちゃんは知り合い、なんですか?」
きっとこの場にいる誰もが気になることを代表して要くんが聞いてくれたんだと思う。
周りの視線が私たちに注がれ居心地が悪い。
千隼くんがどんな言葉を返すのか期待している自分もいるが、このままバレなくてもいいと思う自分もいた。
周りから嫉妬や羨望といった複雑な視線が絡みつく。
「紬希言ってなかったのか?」
「うん⋯」
「紬希と俺は幼なじみだ。昔から知ってる」
千隼くんの言葉に明らかに肩を落としたり嫉妬したりする姿が視界のあちこちから見える。
女性社員の中には千隼くんの一夜の相手に立候補したいと思っている人たちも多くいるだろう。
そういう人たちからしたら同じ職場に幼なじみなんていたら邪魔なだけだ。
だからこそ知られたいと思う反面、誰にもバレたくなかった。
「紬希ちゃん、そうなの?」
「あ⋯⋯うん⋯」
これ以上黙っておくことができず私は渋々うなづく。
その様子をどこか満足そうに見ている千隼くんをよそに、私の顔を見つめる要くんはどこか複雑そうな表情をしていた。
「紬希、話がある。ちょっと来い」
「う、うん」
私は要くんに一言告げて、一足先に歩き出した千隼くんの背中を追った。
かなり目立っている私たちに女性社員からは痛いほど視線が突き刺さる。
嫉妬や妬みの中に少しだけ混じった羨望の眼差し。
その視線たちから逃れるように私たちは空いていた会議室へと足を踏み入れた。
「千隼くん。話って?」
「なんで俺と幼なじみだってこと黙ってた?」
「それは⋯言う必要が無いと思ったから。職場の上司が幼なじみなんて気を使わせちゃうかもしれないし、それに⋯⋯」
「それに?」
「私が幼なじみなんて言わない方が千隼くんのためだと思う」
違う、こんなことを言いたいわけじゃない。
これは単なる私の強がりだ。
千隼くんにその言葉を否定して欲しくて、わざと言うつもりのなかった言葉を吐き出してしまった。
めんどくさい幼なじみだと思われてしまう。
「なんでそんなこと言うんだよ」
「⋯⋯毎週違う女性と一緒に過ごしてるんでしょ?その人たちからしても幼なじみなんて邪魔なだけだし、私が幼なじみだなんて知られたら恥ずかしいのは千隼くんだよ」
「恥ずかしいわけないだろ」
「⋯⋯⋯」
「そいつらと紬希は一緒じゃない。そういう領域に紬希はいねーよ」
その言葉は今の私にとっては何も嬉しいものじゃなかった。
千隼くんと一緒に夜を過ごす対象にもならないと遠回しに言われている気がしてならない。
(分かってたけど⋯初恋の幼なじみに言われると傷つくなぁ)
「俺と幼なじみだってこと隠すなよ」
「千隼くんには関係ないじゃん」
「関係ある。俺は隠すつもりないからな」
千隼くんが一向に譲ってくれない理由が分からない。
"ただの"幼なじみの私に執着する理由が分からないし理解できなかった。
未だに完全に捨てきれない初恋のせいで自分の言葉にすら傷ついていく。
私を見つめる千隼くんの表情が何を考えているか分からない。
「私と幼なじみだってことを公にするのがそんなに大事?」
「大事なことだろ」
「まぁ、もう千隼くんがバラしちゃったから隠すのなんて無理だけど」
「隠さなくていい。これからは普通に話しかけてこい」
最後まで千隼くんが何を考えているのか分からなかった。
会議室を出る前、私の隣に立ち止まった千隼くんはそのまま私を見下ろす。
そして何も言わずに大きな手で私の頭を優しく撫でた。
まるで要くんに撫でられたその感触を上書きするように───。
突然の行動にポカンとしていると要くんはぷはっと声を出して笑う。
「キョトンてしてるね」
「だって撫でられるなんて思ってなかったから」
「紬希ちゃんが言ったからだよ」
要くんの言葉の意味を分からず思考を巡らせているといつの間にか私たちの元に1人の人物がやって来た。
それは焦げ茶の短めの髪を整えてラフなジャケットを羽織り、チラッと見えるピアスからは大人な色気が漂う私たちのチーフ。
「──紬希」
「えっ?!」
「ん?」
この場にいる私だけじゃなく要くんも、そして千隼くんが私の名前を呼ぶ声を聞いた周りにいた同僚も全員が同じ顔をしている。
この会社で私のことを"紬希"と呼ぶのは1人しかいない。
千隼くんは私の名前を呼ぶとそのまま真っ直ぐ瞳を覗き込むように見つめてきた。
少し遠くでデザイナーと話していた真夏ちゃんもまた目を見開き固まっている。
「あの、えと⋯⋯なんでしょう?」
「よそよそしいな。普通に話していいんだぞ」
「っ!」
「えーと⋯早乙女さんと紬希ちゃんは知り合い、なんですか?」
きっとこの場にいる誰もが気になることを代表して要くんが聞いてくれたんだと思う。
周りの視線が私たちに注がれ居心地が悪い。
千隼くんがどんな言葉を返すのか期待している自分もいるが、このままバレなくてもいいと思う自分もいた。
周りから嫉妬や羨望といった複雑な視線が絡みつく。
「紬希言ってなかったのか?」
「うん⋯」
「紬希と俺は幼なじみだ。昔から知ってる」
千隼くんの言葉に明らかに肩を落としたり嫉妬したりする姿が視界のあちこちから見える。
女性社員の中には千隼くんの一夜の相手に立候補したいと思っている人たちも多くいるだろう。
そういう人たちからしたら同じ職場に幼なじみなんていたら邪魔なだけだ。
だからこそ知られたいと思う反面、誰にもバレたくなかった。
「紬希ちゃん、そうなの?」
「あ⋯⋯うん⋯」
これ以上黙っておくことができず私は渋々うなづく。
その様子をどこか満足そうに見ている千隼くんをよそに、私の顔を見つめる要くんはどこか複雑そうな表情をしていた。
「紬希、話がある。ちょっと来い」
「う、うん」
私は要くんに一言告げて、一足先に歩き出した千隼くんの背中を追った。
かなり目立っている私たちに女性社員からは痛いほど視線が突き刺さる。
嫉妬や妬みの中に少しだけ混じった羨望の眼差し。
その視線たちから逃れるように私たちは空いていた会議室へと足を踏み入れた。
「千隼くん。話って?」
「なんで俺と幼なじみだってこと黙ってた?」
「それは⋯言う必要が無いと思ったから。職場の上司が幼なじみなんて気を使わせちゃうかもしれないし、それに⋯⋯」
「それに?」
「私が幼なじみなんて言わない方が千隼くんのためだと思う」
違う、こんなことを言いたいわけじゃない。
これは単なる私の強がりだ。
千隼くんにその言葉を否定して欲しくて、わざと言うつもりのなかった言葉を吐き出してしまった。
めんどくさい幼なじみだと思われてしまう。
「なんでそんなこと言うんだよ」
「⋯⋯毎週違う女性と一緒に過ごしてるんでしょ?その人たちからしても幼なじみなんて邪魔なだけだし、私が幼なじみだなんて知られたら恥ずかしいのは千隼くんだよ」
「恥ずかしいわけないだろ」
「⋯⋯⋯」
「そいつらと紬希は一緒じゃない。そういう領域に紬希はいねーよ」
その言葉は今の私にとっては何も嬉しいものじゃなかった。
千隼くんと一緒に夜を過ごす対象にもならないと遠回しに言われている気がしてならない。
(分かってたけど⋯初恋の幼なじみに言われると傷つくなぁ)
「俺と幼なじみだってこと隠すなよ」
「千隼くんには関係ないじゃん」
「関係ある。俺は隠すつもりないからな」
千隼くんが一向に譲ってくれない理由が分からない。
"ただの"幼なじみの私に執着する理由が分からないし理解できなかった。
未だに完全に捨てきれない初恋のせいで自分の言葉にすら傷ついていく。
私を見つめる千隼くんの表情が何を考えているか分からない。
「私と幼なじみだってことを公にするのがそんなに大事?」
「大事なことだろ」
「まぁ、もう千隼くんがバラしちゃったから隠すのなんて無理だけど」
「隠さなくていい。これからは普通に話しかけてこい」
最後まで千隼くんが何を考えているのか分からなかった。
会議室を出る前、私の隣に立ち止まった千隼くんはそのまま私を見下ろす。
そして何も言わずに大きな手で私の頭を優しく撫でた。
まるで要くんに撫でられたその感触を上書きするように───。
