観覧車が地上に戻り、龍はすばやく先に降りた。

そして降りてくる椿の手を取った。

「椿さん。気を付けて。」

「あ、ありがとう。」

まるで王子に導かれる姫のようだ。

ママとしてではなく、一人の女性として扱われていることに椿は恥ずかしさと照れくささで面映ゆい気持ちになった。

「そろそろ帰りましょうか。翔真が帰ってくる前には家にいないと。」

「椿さん。俺に連れ出してくれてありがとうってお礼を言ってくれただろ?だからご褒美をくれないか?」

龍は少し顔を赤くさせながら、椿にそう告げた。

「な、なに?」

何か買って欲しいものでもあるの?

てっきりお土産ショップに向かうのかと思っていたら、椿は龍にそっと手を握られた。

「遊園地の出口まで、手を繋いでいて欲しい。」

「なっ・・・」

「駄目か?」

龍の手は椿の手を優しく包み、そしてなにより温かかった。

その温もりに椿の手は震え、心が揺れ動く。

そして、やっとの思いで言葉を口にした。

「・・・いいけど。園内だけよ。」

「やった!」

椿は強く握られた手を意識しないように、ぎこちなく龍の横を歩いた。

ふたりを降ろした観覧車は、夕日で赤く染まり、同じ速度でゆっくりと回っていた。