「ねえ。どうして信は久我山家を出たのかしら・・・。本当に龍さん知らないの?」

「それは俺が聞きたい。『探さないでください』という置き手紙だけ残して、信は消えた。」

「龍さんは信と仲が良かった?」

「・・・小さい頃は信とよく庭でかくれんぼして遊んだな。夏の終わりの夕暮れに、生い茂った庭の木の木陰に隠れた俺を、信が何回も『もーいいかい!』て呼んでさ。俺が『もーいいよ!』って繰り返し言うその声で、信は俺の姿を一生懸命探すんだ。だから俺はわざと見つかる場所で身体を丸めてた。すると信は嬉しそうに叫ぶんだ。『おにーちゃん。みーつけた!』ってね。そんな信が可愛くてさ・・・だが、信はある時期から俺を遠ざけ始めて・・・」

そう語る龍の言葉を聞きながらも、椿は気が遠くなっていった。

ああ・・・頭がぐるぐるして、目が回る。

もう駄目・・・目が開かない・・・

「椿さん!大丈夫か?!」

龍は椿の肩を掴んだ。

椿はそのまま崩れるように、ゆっくりと倒れていった。