「うまあーー!」

翔真はA5ランク神戸和牛の大きな肉を、器に入った生卵に付け、それを口に入れた後そう叫んだ。

「そうだろう、そうだろう。たんと食べて大きくなれよ。ははは!」

龍は惜しげもなく、次々と霜降り牛肉をぐつぐつと煮えた鍋に投入した。

甘辛いタレの匂いが部屋一杯に広がる。

「翔真。お肉ばっかり食べないで、お野菜もたくさん食べないと駄目よ!」

そう言う椿に、龍がストップというように手の平を向けた。

「椿さん。そううるさく言うなって。飯がまずくなるぞ。」

「私は翔真の健康のことを思って・・・」

「信が早くに病で亡くなったことで、翔真に身体の良いものだけを食べさせたい椿さんの気持ちは痛いほど良くわかる。だがな、あまり神経質になりすぎても良くないぞ?母親の手作りの食事やおやつだけを食べて生きてきた生徒が、大人になってファーストフードのハンバーガーやフライドチキンにハマってしまう事例を俺は何人も見ている。」

「私の気遣いは無駄だって言いたいんですか?」

椿は思わず龍を睨んだ。

「そうは言ってない。ただあまり頑なにならずに肩の力を抜け、と言いたいだけだ。」

「・・・・・・。」

「ほら。君も白菜や春菊ばかり取ってないで、肉を食べたらどうだ。遠慮するな。」

「・・・・・・。」

・・・まあ、せっかくだから頂こうかな。

めったに食べられないこの高級牛肉を。

椿も甘いタレが絡まった牛肉を口に運んだ。

舌の上でとろけるような食感と、濃厚な旨味が広がった。

「美味しい・・・」