龍が振る舞った長野産の高級蕎麦は、驚くほど美味しかった。

しっかりとしたコシがある麺に、出汁が効いたつゆが絶妙にマッチしていて、椿もこんなに美味しい蕎麦を食べたのは初めてだった。

「美味しい!龍は料理上手だね!」

翔真はそう言うと、勢いよく蕎麦を平らげ、おかわりまでした。

「お褒めに預かり光栄だ。だが俺はただ麺を茹でただけだぞ?」

その麺のゆで加減が難しいのよ・・・悔しいけれど椿はそう思った。

満腹になった翔真は、ソファにもたれかかると、そのまま眠ってしまった。

「俺が運ぼう。」

龍は軽々と翔真を抱き、ベッドに寝かせた。

その後お茶を飲みながらテーブルで向かい合った龍に、椿は問いかけた。

「あなたほどのお金持ちが、どうしてこんな中古マンションに越してきたの?」

「君は本当に察しが悪いな。心理的な距離を縮めるには、まず物理的な距離を詰めるのが一番てっとり早い。」

「まさか・・・私達の為に?」

「逆にそれ以外、どんな理由があるというんだ。」

龍はそう言うと、ゆっくりと茶を口に運んだ。