「引っ越し蕎麦・・・?!」

「ご名答。」

龍は得意気に人差し指を突き出した。

「てことは、お隣に引っ越してきたのは・・・」

「俺だ。」

「嘘でしょ?!」

「早速なんだが、君の家のキッチンを使わせてもらえないだろうか?」

「はあ?!」

「腹が減ったから昼飯を食いたいんだが、俺の部屋まだ引っ越したばかりで、調理器具も出せないんだよ。」

「そんなの、どこかのコンビニでおにぎりでも買えばいいじゃないですか。」

「この蕎麦、なかなか手に入らないんだぞ?俺が作るから、一緒に食おう。」

「・・・・・・。」

「頼む。この通り!」

そう言って龍は頭を下げ、手を合わせた。

その仕草は亡き夫、信を思い出させた。

『椿ちゃん。頼むよ。一生のお願いだから!』

・・・ずるいわよ。

そんな甘え上手なところまで、信に似ている。

「・・・わかったわ。どうぞ。」

椿は玄関のドアを開けた。