「どうだ。君にとっても悪くない話だろう?」
そう言って龍は両手を組み、ニヤリと微笑んだ。
「・・・そんなのやっぱりダメです。あなたは、あなたを愛する女性と結婚すべきです。」
「君が信を愛し続けていても、俺はかまわない。」
「私がかまうんです。愛のない結婚なんてしたくありません。話は終わりです。」
椿はそう言うと席を立った。
しかし龍は、椿の拒絶の言葉にまったく動じることなく、平然とした表情で言った。
「どうしてそう君はせっかちなんだ。翔真君にお土産を持って行かなくてもいいのか?君が食べ残したプティガトーを包ませるから、翔真君に持って帰ればいい。」
そう言うと龍は店のスタッフを呼び、その洋菓子を箱詰めさせ椿に手渡した。
「ありがとうございます。翔真もきっと喜びます。でも・・・」
椿は改めて龍にハッキリと言った。
「このお話は無かったことにさせてください。」
椿の念を押すような言葉に、龍は微笑んだ。
「まあ、今日のところは引き下がろう。何しろ、初めての顔合わせだからな。だが、俺は諦めが悪いんだ。覚えておくといい。・・・君、このカードで会計を済ませてくれ。」
龍は近くにいた店のスタッフにそう告げた。



