椿は不審げな声で言った。

「夫に兄弟がいるなんて聞いたことないんですけど・・・」

「いや、信には俺という兄がいる。そして両親もな。」

「でも・・・信は家族は皆どこにいるかわからない、生き別れた・・・って言ってました。」

「それは信がそう言っているだけだ。」

「・・・・・・。」

「君と君の息子には久我山家の財産を譲り受ける権利がある。詳しい話は俺と会って・・・」

「詐欺ですよねっ!」

椿は思わずそう叫んだ。

「・・そ、そんな見え透いた嘘・・・私が信じるとでも思っているんですか?そうやって美味しい言葉で釣ってお金を巻き上げるつもりですよね?ウチにはそんなお金ありませんので・・・失礼します!」

そう言って椿が一方的に電話を切ろうとすると、久我山龍と名乗る男が引き留めるように切迫した声で言った。

「待て待て!落ち着いて聞いてくれ!俺が今言う電話番号へかけ直して欲しい。俺が勤める久我山学園に繋がるはずだ。そしたら俺を・・・久我山龍を呼び出してくれないか?」

「・・・・・・。」

「大事な話なんだ。君の大切な翔真君の将来に関わることだ。どうしても聞いて欲しい。」

そして龍は久我山学園の代表番号を椿に伝えた。

翔真の名前を出され、椿の心は乱れた。

「じゃあ一旦切る。君からの電話、ずっと待ってるからな。」

そして電話は唐突に切れた。