都心から少し離れた高級住宅地の一角に佇むアンティークな洋菓子店で、椿は初めて会うその男と向き合っていた。

久我山龍(くがやまりゅう)はカップをゆったりと傾け、注文したコーヒーを上品に飲んでいる。

椿の前にもマイセンのコーヒーカップに入れられた香り高きコーヒーが置かれ、その横の皿の上には宝石のように美しい小さなケーキの数々が飾られていた。

こんなお洒落な場所だったのなら、もっときちんとした服を着てくればよかった・・・

椿は白い綿のブラウスにジーンズで来てしまった自分が、場違いに思えて仕方がなかった。

久我山龍は仕立ての良い紺のスリーピーススーツに、品のあるストライプのネクタイを締めていた。

「椿さんも飲んだらどうだ?ここのコーヒーは絶品だぞ?ああ、そのプティガトーもフランスでスイーツを学んだシェフご自慢のものだ。」

龍はそう言って、わずかに口角を持ち上げた。