椿は陽子に尋ねた。

「陽子さんは、どうしてこのことを私に打ち明けようと思ったんですか?」

陽子は首を小さく振った。

「さあ。なんででしょう。私にもよくわかりません。でも椿さんには本当のことを知っておいて欲しかったのです。」

「・・・・・・。」

「龍様はあのとおり見目麗しく成績も運動神経も優秀、そしてなにより久我山家のご子息だというお立場でございます。当然たくさんの女性におモテになっておいでです。これまでの龍様は来る者は拒まず去る者は追わずというスタンスで、とてもクールに女性とお付き合いされていらっしゃいました。でも女って生き物は貪欲ですものね。相手から本気で愛されてないと気付いたら、そりゃあ去っていきますよ。」

「・・・・・・。」

「でも先日の龍様のご様子が私の目にはとても印象に残ってしまって・・・。椿さんや翔真君を見守る龍様の表情が今まで見たことがないくらいに優しくて、お幸せそうで・・・。」

「・・・・・・。」

「だからどうだということはございませんが、椿さんには本当の龍様のお姿を理解して頂けたらと思ったのでございます。・・・年増の戯言にお付き合いさせてしまい申し訳ありませんでした。お時間頂戴して感謝致します。ありがとうございました。」

そう言って陽子は深々と頭を下げた。

「いえ・・・こちらこそ・・・そんな大切なお話を聞かせて頂いて・・・ありがとうございました。」

椿は、かろうじてそう口にすることしか出来なかった。