椿はその真実を知り、信が何故久我山家から去ったのかを理解した。
気が弱く優しい信のことだから、龍への罪悪感でずっと苦しかったに違いない。
だから・・・
「信様が黙って久我山家を去られたのは、龍様への贖罪だったのではないかと・・・。いえ、信様はなにひとつ悪くないのです。けれど・・・お優しい信様は、龍様が自分の代わりに不当に扱われているのを見るのが耐えられなかったのだと思うのです。」
「そう・・・だったんですね。」
「だから奥様は青い帽子を被った翔真君を見て、自分の実の子が本当は龍様だということを思い出されたのではないかと思ったのです。その光景を見た龍様のお気持ちを考えると、私は泣けて仕方がなくて・・・」
そう言って陽子は、目をしばたかせた。
「龍様はご自分を冷たく扱っていた奥様を恨んでいてもおかしくないのに、認知症になられた奥様を、あのようにご自分の絵で楽しませておいでなのです。」
『親の幸せは子の幸せでもある』
あの日の龍さんの言葉・・・
あのとき龍さんは、どんな思いでその言葉を発したのだろう・・・



