「そんなことない。」

椿は箱の底に隠しておいた、少年時代の龍の写真が入ったポケットアルバムを取り出した。

「本当に龍さんに見せたかった写真は、これなの。」

椿は龍の前にそのポケットアルバムを開いてみせた。

龍はその写真が自分だとすぐに気付いたようで、神妙な顔つきで写真を一枚ずつ目で追っていた。

「龍さんって少年の頃から優秀で人気者だったのね。だって表彰されているところとか、クラスメイトと一緒にはしゃいでいるとことか、そんな写真ばかり。龍さん、幸せそう。」

「・・・幸せなもんか。」

龍は小さく低い声でそうつぶやき、ただ写真のページをめくっていった。

「なんでこんな写真を信が持っていたんだ。どうして俺の写真なんか撮っていたんだ・・・わからない。」

「龍さんに憧れていたんじゃないかな?」

椿の言葉を龍は即座に否定した。

「そんなはずがない。信は俺が話しかけても、ろくに返事もしなかった。きっと俺に気を使っていたんだと思う。」

それは龍さんが愛人の子だったから・・・?

椿は信の思いを代弁するように言った。

「私はこの写真を見て、信は龍さんのことが本当に大好きで誇らしかったんだなって感じた。だってメモ書きに『親愛なるお兄ちゃんへ』って書いてある。」

龍はそのメモ書きの文字をじっとみつめた。

「椿さん。この写真、俺が持っていてもいい?」

真剣な表情の龍に、椿は頷いた。

「もちろん。その為に龍さんを呼んだんだから。信からの写真、大切にしてあげて。」

「・・・・・・。」

ポケットアルバムを持つ龍の手は、小刻みに震えていた。