「なに・・・これ。」

椿は箱の蓋を開けた。

中には大量の写真が入っていた。

信は写真を撮るのが趣味だったが、その整理整頓は苦手だった。

アルバムなどを利用せず、写真を撮ったそばからこの箱へ保存していたのだろう。

そこには幼い翔真を連れた椿と信の三人家族が、動物園や国営の広い公園で遊んだ時の写真が入っていた。

やらなければならない作業があるのに、またもやその写真の数々を一枚づつ見入ってしまう。

「懐かしい・・・」

そう微笑みながら写真を見ている自分に気付き、椿は息を呑んだ。

少し前の椿は、信との幸せな日々を思い出させる写真を見る度に、胸を締め付けるような痛みと心に吹きすさぶ淋しさで、泣きそうになっていた。

そんな辛い気持ちになるのなら、いっそあの頃を思い出させる写真など見なければいい、そう思っていた。

けれど今この写真を見ている椿の心には、嵐のような激しく冷たい風ではなく、暖かく穏やかなそよ風が吹いている。

「龍さんのお陰かな・・・」

椿はぽつりとそうつぶやいた。