「今の人、何者だろうね?最近、よく見かけるよ?」

幸枝がささやき声で椿に言った。

「そうなの?私、初めて見た。」

「なんだかいつも久我山さんを見ているようだけど?」

「え?私?!」

椿は驚きの声をあげ、その後すぐに顔の前で小さく手を振った。

「ないない。私、ああいうセレブな方と接点ないもの。」

「いやいや。わからないよ?久我山さん可愛いから、スパダリに見初められちゃったのかも。」

「スパ・・・ダリ?」

初めて聞く言葉に首を傾げた椿を、幸枝はやれやれといった顔で見ながら説明した。

「久我山さん、知らないの?スパダリとはスーパーダーリンの略。お金持ちでルックス良し、性格も良くて家事も出来るパーフェクトな男をそう呼ぶの。しかも攻めなのよ?ああ、私もスパダリに溺愛されたい!」

「・・・攻め・・・??」

なんのことやら椿にはさっぱりわからない。

・・・ま、いいか。

自分とは遠い世界の話だ。

椿は仕事の手を動かした。

しかし次に聞こえた言葉で、椿の仕事の手が再び止まった。