しかしそんな仕草は一瞬で、龍は椿に笑って見せた。

「椿さん、そんな顔するな。母の不可思議な言動にはもう慣れている。椿さんこそ・・・母が無礼ですまなかった。」

沙織は翔真に夢中で、椿は全く蚊帳の外に置かれていた。

「ううん。それはいいんだけど・・・お義母様は龍さんのことを絵描きさんって・・・。」

「ああ。俺がいつも母に絵を描いて渡すから、絵描きだと思ってるんだ。まあ、実際に絵描きではあるんだけどさ。」

認知症になってしまうと、息子の存在すら忘れてしまうのか。

もし自分が将来認知症になって、翔真のことを忘れてしまったら・・・そんな悲しいことを考え、椿は唇を噛みしめた。

椿は隣を歩く龍の心の内を想像し、胸が苦しくなった。

実際、龍は母親に忘れられてしまっているのだ・・・