「沙織さん、ごきげんよう!」

龍が陽気に声を掛け、おどけてみせた。

沙織は、呆けた顔を龍に向けた後、少しだけ表情を動かした。

「あなた、誰だったかしら?」

「忘れちゃいましたか?僕は絵描きです。」

「ああ。そうだったかしら?久しぶりねえ。今日は何を描いてきてくれたの?」

「今日は・・・ジャーン。白くて美しい猫を描いてみました。」

龍は持っていたグレーのショルダーバッグから、小さなスケッチブックを取り出し、その表紙をめくった。

そこにはふわふわな毛並みが綺麗な、可愛らしい猫の絵が色鉛筆で描かれていた。

沙織はそれを見て、子供のような笑顔を見せた。

「あら、可愛い。やっぱりあなたの絵は素敵だわ。ねえ、そう思うでしょ?」

そう声を掛けられた陽子は、一瞬顔を強ばらせ、小さく頷いた。

「いや、それほどでも。」

龍は頭に片手を置き、嬉しそうに笑った。

「今度は白くて可憐な鈴蘭の花の絵をお願いするわ。」

「わかりました。楽しみに待っていてください。」