「・・・椿さん。里見君のこと、ありがとう。婚約者のフリをしてくれたんだな。里見君がこの間問い詰めてきた。椿さんと俺は本当に婚約してるのかって。だから本当だと言っておいた。そしたら諦めてくれたようで、ストーカー行為はピタリと止んだ。椿さんのお陰だ。」

「あれは・・・あくまでもフリだから・・・」

龍は目を伏せ、小さくため息をついた。

「・・・里見君には悪いことをしたと思ってる。最後まで責任も取れないのに中途半端に優しくして・・・あの子の過酷な家庭環境を聞いて、つい耳障りの良い言葉をかけてしまった。俺は駄目な男だな・・・」

そう肩を落としている龍に、椿は優しく言った。

「龍さんは駄目な男なんかじゃないわ。まりあちゃん、言ってた。銀先生に優しくしてもらって嬉しかったって。初めてレディって言われたこと、すごく喜んでた。そんな龍さんを私は・・・」

「私は・・・?」

龍が次の言葉を待っている。

私は・・・・・・

「尊敬してる。」

龍は期待が外れたような、がっかりしたような顔を一瞬し、その後すぐに小さく笑った。

「そうか。こんな俺を尊敬してくれて、ありがとう。」

「・・・・・・。」

私は・・・一体何を言おうとしていたの?

椿は思わず口にしそうになったその言葉に、自分でも戸惑っていた。