「実はね、その先生に草壁銀っていう画家さんの絵画教室へ通わないかって言われたことがあって・・・。龍さん、草壁銀って人、知ってる?」

龍がにんまりと笑った。

「なにを隠そう、俺が草壁銀本人だ。」

「ええっ?!」

椿は息を呑み、思わず龍の顔をじっと見た。

「その保育士って花田真名だろ?俺の絵画教室の生徒だ。実は運動会のときに見かけたんだ。声は掛けなかったが。」

「そう・・・だったんだ。」

「俺としたことが、翔真の絵の才能にいままで気づかなかったなんて、迂闊だった・・・椿さん。今週からでも俺の絵画教室に翔真を通わせたい。」

「僕、龍の絵画教室で絵を一杯描きたい!」

翔真が新しい世界へ飛び込むことにワクワクしているのが、椿にも伝わってきた。

「でも・・・」

「でも、なんだ?」

「お月謝が・・・」

「月謝なんか取るわけないだろう!俺がなんの為にここにいるか君は本当にわかっていないな。」

「・・・・・・。」

「絵画教室は土曜の19時から21時だ。俺が送り迎えするから、椿さんはなにも心配しなくていい。」

「ありがとう・・・。」

深々と頭を下げる椿に、龍は笑って言った。

「水くさいな。翔真は俺の甥だ。それくらい当然だろ?」

椿は龍に感謝の思いで一杯になった。