椿はふたりの側に近寄り、声を掛けた。

「何を描いているの?」

ふたりは目線を対象物からそらさずに、口を合わせて言った。

「花壇の向日葵」

椿はふたりの絵を覗き込んだ。

翔真の絵もよく描けている。

大胆な色使いで、向日葵の花びらが力強い。

けれど龍の絵のレベルは桁違いだった。

まるで写真のように見える。

真剣な表情で絵を描く龍はいつもとは別人のようで、椿の胸がドキッと高鳴った。

イケメンだとは思ってたけど・・・龍さんてこんなに格好良かったっけ・・・?

椿は龍の顔をしばしじっとみつめた。

「俺の顔になにかついてるか?」

「・・・ううん。ちょっと驚いただけ。」

椿はそう言って誤魔化した。

「龍さん・・・すごい絵が上手・・・画家みたい・・・。」

「そりゃそうだろ。俺は美術の教師だからな。」

龍のその目は一番得意なものを褒められて喜ぶ少年のようだ。

「龍さんって美術の先生だったんだ・・・。知らなかった。いつも龍さん、スーツ着てるし。」

「はははっ。言ってなかったか?スーツ着てないと、次期理事長としてらしくないだろ?でも授業をするときは汚れてもいい服に着替えている。」

「次期理事長も大変なのね。」

椿はふと真名の言葉を思い出した。

『翔真君には多大なる絵の才能が確実にあります』

「ねえ龍さん。前にね、保育園の先生に言われたの。翔真には絵の才能があるって。美術教師である龍さんの目からみて、翔真の絵ってどう?」

「まさに今、それを椿さんに言おうと思っていたところだ。」

龍は興奮したように、椿の方を向いた。

「翔真の絵の才能は素晴らしい。着眼点も構図も、そして色彩感覚も。」

「やっぱり?!」

真名のみならず、美術の教師である龍からもお墨付きをもらい、椿は嬉しさを隠しきれなかった。