いつの間にか椿の身体を濡らす雨の粒が消えた。
振り向くと龍が椿に傘を差しかけていた。
龍が穏やかに言った。
「翔真から話は聞いた。」
「・・・・・・。」
「風邪引くぞ。早く帰ろう。翔真が待ってる。」
龍の顔を見た途端、ホッとした椿の目から涙が溢れた。
「龍さん・・・私、翔真に合わせる顔がない。」
「・・・・・・。」
「翔真は何も悪くないのに、自分の感情に流されて翔真を強く叱ってしまった。翔真をかばうことも守ることもできなかった。翔真を傷つけてしまった。私なんて、母親失格なの・・・。」
龍は椿の頭に手を置いた。
「椿さんは決して母親失格なんかじゃない。やらなければならないことをしただけだ。」
「・・・・・・。」
「翔真だって本当はわかっているはずだ。・・・さ、一緒に家へ帰ろう。」
椿は龍に腕を掴まれて立ち上がり、ひとつの傘の中でふたりは何も話さず、家路を歩いた。



