また翔真に拒絶されるのが怖くて、椿は身体を動かすことが出来なかった。
気付くと暗い空から雨粒が降っていた。
ぽつんぽつんと落ちてくる雨に濡れたまま、椿は俯いていた。
突然バッグの中に入れていたスマホから、呼び出し音が鳴っているのが聞こえてきた。
見るとスマホには龍の名が表示されている。
一瞬手が止まり、龍の名前をみつめたまま息を呑んだ。
椿はスマホをタップして耳に当てた。
スマホの向こうから、龍の心配そうな声が聞こえてくる。
その声には焦燥感が滲んでいた。
「椿さん。いまどこ?」
「・・・・・・。」
「翔真が俺の部屋に来たんだ。僕が悪いことしたからママが帰って来ないって・・・そう言って泣いている。」
「・・・・・・。」
「傘は持ってるのか?」
「・・・・・・。」
「迎えにいくから場所だけ教えてくれないか?」
「・・・近所の児童公園。」
かろうじてそう答えた椿に龍は早口で言った。
「すぐに行くから、そこで待ってて。」
冷たい雨の音が響く中、温かい龍の言葉が椿の耳に残った。



