○マンション近くのゴミ捨て場

半袖のTシャツにロングのスウェットを着てゴミを捨てに来た菜摘。

先客に西澤がゴミを捨てに来ていた。


菜摘「西澤くん」

西澤「あ、おはよう園田さん」

菜摘「おはよう」


菜摘が住んでいるマンションの部屋の隣が西澤という事が昨日の夜判明した。

入居時からどんな人が住んでいるのだろうと気になっていたが、タイミング合わず誰が住んでいるか認知していなかった。


菜摘「今日は朝から必修なんだ私寝ちゃいそう〜」

西澤「俺も。朝イチって結構辛いよね」

菜摘「辛いつらい。だから朝はきちんと食べないと」

西澤「満腹になったら逆に眠くならない?」

菜摘「なるけど、食べるのと食べないのじゃ頭の働きが違うから。それに私、食べてないと気がすまなくて。えへへ」


菜摘(はっ…!突然の食いしん坊発言して引かれてないかな)


西澤「園田さんらしいね。俺も見習って朝ごはん食べよう」


引かれることしか予想していなかった西澤の発言に驚いた。


菜摘(男子からはいつも食いしん坊ってバカにされていたから、てっきり西澤くんにも)


西澤「園田さん?」

菜摘「あっ、何でもないよ。早く帰ろう。食べる時間無くなっちゃう」


西澤の背中を押してマンションへと急ぎ足で帰る。


○大学


朝食を終え、大学に登校した菜摘と西澤。2人はそれぞれ教室へと向かう。

一講目を終えた西澤はサークル棟へとやってきた。所属するサークルの部室に入ると同級生で友人の久保田と先輩の片桐が作業をしていた。


西澤「お疲れ様です」

久保田「遅いぞ西澤」

西澤「久保田が早いだけだ。講義終わって直ぐ教室出ただろ?」

久保田「作業時間は1秒も無駄にしちゃいけない。これ俺のマイルール」


自慢げに話すが、講義の最後に教授がテストについて話していたのを聞きそびれたことをこの時は知らなかった久保田。


片桐「西澤。昨日送ったやつ出来たか?」

西澤「はい。声はもう入れておきました。あとはテロップと細かい修正だけです」

片桐「おう、流石だな」


西澤たちが所属するサークルは“学校紹介サークル”。少人数の組織で学校や学校周辺の飲食店などを紹介している。

それぞれ撮影、編集、アフレコなど作業分担して学校公式の動画チャンネルを持っていて、完成したものはそこに投稿される。

資料や機材で埋め尽くされている部室内。西澤たち3人は残暑が残る暑い室内で作業をする。


片桐「お前ら今度の三連休はちゃんと空けたか?」

久保田「空けましたよ〜。なんたって合宿!夏とは違う環境で撮影できるなんて最高じゃないですか!」

西澤「俺も空けてあります。紅葉にはまだ早いけど、いいものが撮れそうですね」


今度の三連休は西澤たち3人で遠出をしてサークル活動をする。片桐の提案で学校外での撮影もしている。

学校生活から離れて休日を楽しむ姿をメインに撮影している。


片桐「まぁー撮影は問題なさそうなんだが…」

久保田「何か問題あるんですか?」

片桐「場所は湖に囲まれたコテージ。自然豊かで野生の動物も数種類いるらしいんだが」

西澤「もしかして熊とか出るんですか?」

久保田「くまぁ!?」

片桐「いや、熊の情報はない。それよりも問題なのが食事だ」

西澤・久保田「ーーっ!」


食事という単語を口にした瞬間、場の空気が変わる。3人は深刻そうな表情した。


片桐「辺りは山に囲まれているコテージだ。スーパーやコンビニは車で一時間くらいかかる。となると初日のうちに材料は揃えないといけないってことだ」

久保田「車で一時間って遠すぎやしませんか」

片桐「その分、いい画が撮れるはずだ。ただ思い出してみろ、夏合宿で作った俺たちの料理を」


久保田の顔色は瞬く間に青ざめていく。西澤も気分が悪くなったのか口に手を当てた。


久保田「俺ら、料理のセンス全くなかったな」

西澤「思い出したくなかった」


西澤たち3人は今年の夏休みに合宿を行った。その時作った料理は酷く焦げていてとても不味かった。

3人とも料理などほとんどした事がなく、腕は壊滅的でそれからというもの思い出す度に気分が悪くなっていた。


片桐「という訳で今回の合宿の食事は出来合いのものを調達する事となるが何か意見あるか?」

久保田「はい」

手を上げる。

片桐「久保田」

久保田「毎日出来合いのものは飽きるから食事係として誰か誘えませんか?」

片桐「食事係かー。そうだなぁ、誰か料理出来る奴知ってるのか?」

久保田「俺の知り合いは料理出来るって言ってもカップ麺くらいだな」

片桐「お前に聞いた俺が悪かった。次の連休まで時間はあるから各自食事を作ってくれる人を探すように」

西澤・久保田「はーい」


作業を一段落した西澤は白米と菜摘が作ってくれたおかずを入れた弁当箱をリュックから取り出す。

詰めただけの弁当だが、彩りと栄養のバランスが取られていた。


久保田「なんだ西澤、美味そうな弁当だな」

西澤「良いだろう」

久保田「まさか…!?彼女でも出来たのか〜?」

西澤「彼女じゃないよ。お隣さんから貰ったんだ」

久保田「ふーんお隣さんねぇ。こんなに栄養考えられたおかずを作るなんてお前に気があるんじゃないのか?」

西澤「そんなんじゃないよ。ただ料理が好きな普通の人だよ」


持参した割り箸を割って弁当を食べる。


西澤(美味しい。園田さんの料理は優しい味がするな)


西澤「あ…」

久保田「ん?どーした?急に食べるの止めて」


箸を止めた西澤は何かを思いついたのか、フッと笑みを浮かべた。


西澤「俺、今日は先に帰るわ」

久保田「放課後残らないのかよ」

西澤「あぁ。やる事出来たから」

久保田「やる事って何だよ?」

西澤「秘密だ」

久保田「はぁ〜?」