「おう、おはよ。」
今日も爽やかに微笑みながらそう挨拶する直生は、このお店の看板息子兼店長。
特におば様たちから人気のあるおば様キラーなのだ。
「おはよ。」
「これから出掛けるの?」
「うん。」
美紗ちゃんの前で"仕事"ではなく"出掛ける"という言い方をしてくれたのは、わたしの今の職業を知らない美紗ちゃんの直生の気遣いで、わたしへの配慮だった。
そんな会話をする直生をわたしを横目に、さり気なくお店の中へ入って行く美紗ちゃん。
それから直生は、少し控えめな声量で「今日は?どんなお客さん?」と訊いてきた。
「今日これから会うのは常連さんだよ。40代のいつもランチタイムに予約を入れてくれる社長さん。」
「あぁ、北島さん?だっけ?」
「そうそう、よく覚えてるね。」
「そのあとは?」
「そのあとは、15時からと18時から予約が入ってる。」
「今日も相変わらず忙しいなぁ。」
そう言って、何だか複雑な表情を見せる直生。
「帰り、遅くなるなら連絡しろよ?迎えに行くから。」
「うん、ありがとう。」
そう言い、ふと社用スマホで時間を確認すると、わたしは「あ、そろそろ行かなきゃ。」と言って、「じゃあ、行ってくるね!」と直生に手を振ると、店内に居る美紗ちゃんに「美紗ちゃん、じゃあねー!」と声を掛けてから仕事へと向かったのだった。



