空は、あの日も不自然なほどに青かった。

処刑台に立たされた少女は、あどけない顔に微笑みを浮かべ、群衆の嘲笑を真っ直ぐ見つめていた。背には、折れた片翼。もう片方は、処刑人によって引き裂かれた。
彼女は「天使」だった。
そして「罪人」として裁かれた。
――愛したから。

それが、彼女の犯した唯一の罪。
「……ごめんね、レイ。あなたに会えたことだけが、私の救いだった」

少年は、人の海の中でただ立ち尽くしていた。声も、涙も出なかった。
天使が微笑んで、静かに目を閉じたその瞬間、鐘が鳴った。世界が終わるような音が、彼の中に響いた。
灰色の石畳を、少年は走っていた。

レイヴン・カスティル 17歳。
かつては小さな村のパン屋の息子でしかなかった彼が、今や王都全体に指名手配されている。