「あっ!」

足元に石があるのに気づかず、つまづいて転んでしまった。

「麗明様!!お怪我は無いですか?!」

波瑠が心配している。冷や汗までかいている。当然だ。付き人の主に何かあれば首がとんでも、普通のことであるのだから。そんな世の中に私は吐き気がする。

「大丈夫。少しかすっただけよ。私の不注意だから。貴方は何も悪く無いわ。さぁ、戻りましょう。手を貸してくれる?」

「はい!お気遣いありがとうございます。反省します。」

と、波瑠。反省なんて、私がしたことに貴方が反省するの?おかしいじゃ無い。そう思うことは、多々あるがこれが後宮だ仕方ない。

⚪︎「麗明様。西行様がお見えです。」と波瑠が早朝に私に伝えにきた。

 「あら。通してちょうだい。」

西行とは、私の第二の父親である。母に先立たれた1人の私を拾ってくれた都の上級の宦官である。そして、私を後宮に使えるよう命じたのも西行である。

 「こんな早朝に伺ってすまんの。」

波瑠が、お茶を出している最中に会話を始める、西行。

 「いえ。私も暇を持て余していたのです。お伺いいただき嬉しく存じます。」

 「そうか。なら、よかった。」

と西行。

 「今日は何用で?」

「ああ。今日尋ねたのはな、お前に会いたいという、者がおってな。私の戦場での弟子なのだかな。会ってはくれんかの。」

 「え、私にですか、」

 「そうだ。麗明、其方は顔が凛としている。そして、舞も一流波だ。己の嫁にしたいと言う者は、山ほどおる。だがな、わしはあまり受け入れてなかったんじゃ。それはそれは、大事にしている娘だからな。」

西行様は、血の繋がっていない私をこんなにも大切に思ってくれている。すごくありがたい。
私が歩むはずだった枯れた人生を、運命をここまで薔薇色に染めてくれた。ここまで大きく健康に育ててくれた。
西行様には感謝しても仕切れない。
何か恩返しをしたいとつくづく思っていた。

 「たが、今回の者は、他とはちがう。わしにはわかる。この直感が物を言っとる。会ってみたら、わかる。」

「本当ですか?」

 「ああ。本当だ。嘘はつかない。どうだ?会うだけで良いんじゃよ?」

こんなにも私に頼んでいる。なんとか私にできる限りのことは差し上げたい。

「まぁ。会ってみるだけなら。」

 「そうかそうか!!では、その者に伝えておく。準備しておけ。」

「はい。楽しみにしています。」