早くこの花について気づいていたら、
もっと早く貴方を知っていたなら、
私の心はこんなにも苦しく、辛く、
泣きたいほど甘い、儚い気持ちには、
ならなかったのだろうか。
会いたいと思えば思うほど、
手が、頭が、血が、震える。
ーーー拝啓、清架殿。ーーー
⚪︎日が眩しい。私には、似合わないお洋服。腕を通すだけで、違和感がしてならない。
しかし、眉を寄せる私とは逆に、外は穏やかだ。池で、鯉が水をかきわけて、泳いでいる。
私も洋服の中で泳ぎたいと頭の中で思うが現実はそう、うまくいかない。
「麗明様。お目覚めですか。」
付き人の波瑠が、私に声をかけている。
「ええ、今起きたところよ。」
「少し池のほとりを、歩こうかしら。」
少し窮屈で、高質な草履を履いて綺麗に手入れされた庭に足を踏み入れる。
あの時は、履き慣れて、陳腐化した草履に足を通していたのに、何故こうなったのだろうか。
私は、雪夜後宮の師匠に仕える麗明。半年前は、ここには無いもっと薄暗く、静かで人通りが少ない場所。そう、小さな村に住んでいた。そう、小さな小さな。
すれ違う人全て顔馴染みで、私をよく知っている人ばかりだった。父がいなかった私は、母と2人で暮らしていた。肩身が狭く、とても貧乏だった。
でも、母とするたわいのない会話がとても幸せで笑顔になれた。
ーでも、そんな幸せの日々はそう長くは続かなかった。
母は、元々肺の病気を患っていて、日に日に悪化していた。
幼かった私の目には、母は、生き生きとして明るい母にうつっていた。
しかし、ある日突然体調が変異し、私の前から姿を消した。
それを可哀想に思った都に住む上級の宦官が私を一度入ったら、外の世界をみるのには、時間がかかる場所、後宮へと、手を引いていった。
ー最後の母の記憶は私には残っていない。何故だろうか。笑顔でいる母しか、頭にうつらないのは何故だろうか。
ー母は、花が好きだった。
「花は私を笑顔にする。花は人と同じよ。」
「花は育ち、強くなるために水が必要。人間にも、花のように涙が必要。泣きたいときは、泣けばいいのよ。涙は貴方を悪くしない。強くするの。心を動かすのよ。」
母の口癖は、私の心の中で深く根付いていた。気づかないうちに。
そっと。
根から水を吸い上げるように。
そっと。
もっと早く貴方を知っていたなら、
私の心はこんなにも苦しく、辛く、
泣きたいほど甘い、儚い気持ちには、
ならなかったのだろうか。
会いたいと思えば思うほど、
手が、頭が、血が、震える。
ーーー拝啓、清架殿。ーーー
⚪︎日が眩しい。私には、似合わないお洋服。腕を通すだけで、違和感がしてならない。
しかし、眉を寄せる私とは逆に、外は穏やかだ。池で、鯉が水をかきわけて、泳いでいる。
私も洋服の中で泳ぎたいと頭の中で思うが現実はそう、うまくいかない。
「麗明様。お目覚めですか。」
付き人の波瑠が、私に声をかけている。
「ええ、今起きたところよ。」
「少し池のほとりを、歩こうかしら。」
少し窮屈で、高質な草履を履いて綺麗に手入れされた庭に足を踏み入れる。
あの時は、履き慣れて、陳腐化した草履に足を通していたのに、何故こうなったのだろうか。
私は、雪夜後宮の師匠に仕える麗明。半年前は、ここには無いもっと薄暗く、静かで人通りが少ない場所。そう、小さな村に住んでいた。そう、小さな小さな。
すれ違う人全て顔馴染みで、私をよく知っている人ばかりだった。父がいなかった私は、母と2人で暮らしていた。肩身が狭く、とても貧乏だった。
でも、母とするたわいのない会話がとても幸せで笑顔になれた。
ーでも、そんな幸せの日々はそう長くは続かなかった。
母は、元々肺の病気を患っていて、日に日に悪化していた。
幼かった私の目には、母は、生き生きとして明るい母にうつっていた。
しかし、ある日突然体調が変異し、私の前から姿を消した。
それを可哀想に思った都に住む上級の宦官が私を一度入ったら、外の世界をみるのには、時間がかかる場所、後宮へと、手を引いていった。
ー最後の母の記憶は私には残っていない。何故だろうか。笑顔でいる母しか、頭にうつらないのは何故だろうか。
ー母は、花が好きだった。
「花は私を笑顔にする。花は人と同じよ。」
「花は育ち、強くなるために水が必要。人間にも、花のように涙が必要。泣きたいときは、泣けばいいのよ。涙は貴方を悪くしない。強くするの。心を動かすのよ。」
母の口癖は、私の心の中で深く根付いていた。気づかないうちに。
そっと。
根から水を吸い上げるように。
そっと。
