数日後。
久々に午前中の手術についていなかった京子は、
のんびりと朝礼の時間ギリギリに出勤した。

マスクを咥えて髪を縛り、
帽子を被りつつ、総合外科部門の受付へ。

洗面台で手洗いを終えると、
見知らぬ顔がいくつか目に入った。


「誰?」

「あ、おはようございます」


京子が声をかけたのは、廣瀬(ひろせ)みのり。

ここへ来た当初はおどおどしていた子だが、
今では戦力として立派に成長したしっかり者だ。

みのりはおっとりした小さな声で京子に耳打ちした。


「移動者さんです。
 ほら、病棟が一つなくなって、
 看護師の大移動があるって噂
 あったじゃないですか?
 あれ、本当だったみたいですね」

黒ぶち眼鏡がキラリと光る。

その先には、京子より下にも上にも見える4人の
移動者が、師長から皆へ紹介されていた。


「この時期に移動かー。
 しかもベテランだったら尚更気の毒だよね」

「オペ室は病棟とは全く違いますからね」

「先輩に教えたりするの、苦手なんだよなぁ」

「あー、わかります」


師長が長々と4人の移動者の説明をしているようだが、
京子はあまり興味がなかった。

どうせ今名前を聞いても覚えられない。

この歳になると、
なかなか名前と顔が一致しない現象が
顕著に出てきてしまうのだ。