パジャマからグレーのスウェットに着替えて、白いヘアバンドで伸びた前髪を上げて、キッチンへ行く。
1DKの間取りは、俺ひとりにはちょっと広すぎるといつも思うのだが、
となりに住んでいるやつは「もっと広いところに引っ越したい」と常々口にしている。
彼の収入源はよくわからない。スチームパンク風のオブジェを作ったり、絵を描いたり、ダンスをしたり、歌を歌ったり、
とにかく、アーティスト活動なるすべてのことをやっているようだった。
(あいつが引っ越したら、さびしいな……)

まず、鍋にお湯を沸かす。
冷蔵庫にしなびたキャベツの残りがあったので、それをザクザク刻む。
(ドラムたたいてるみたい。このザクザクって音、好き)

冷凍庫にあった油揚げは、沸かしたお湯をザッとかけて油抜きをし、千切りにする。
(しんなりしてる。ちょっとかわいい)
お湯が沸いたら、そこにキャベツと油揚げを入れて煮えるまで待つ。

世界には憂うつなニュースがあふれているけれど、それと同じくらいしあわせなニュースもあるはずだ。
俺が見つけられないだけなのかな。
悲しいニュースの方が目に留まりやすいだけなのかな。

スマートフォンは見ない。ただ、
グツグツ煮えている鍋の中身を見る。
(平和だ)

静かで、やさしい、深夜の時間。