また、バイクが通っていく音が聞こえた。こんな夜中にどこへ行くのだろう。
俺のように、夜中でないと仕事ができないひと、もしくは深夜勤務のひとがいるんだろうな。

「ふー……」
しばらく絵を描きつづけて、それから、俺は長いため息を吐き出した。
首を左右に動かしたら、リスがクルミを噛むようなコリコリと言う音がする。肩がこってガチガチに固まっている。
明日は整体へ行かなければ。

緑色のカーテンを開けて外を見る。
向かいの家の2階にオレンジ色の明かりがついている。勉強中かな。仕事中かな。
（コンビニへでも行こうかな。ちょっとおなかすいたかも）
そう言えば夕食も食べずに絵を描きつづけてしまった。締め切りが明日だから。
俺は、締め切りを破ったことは一度もない。約束を破るなんてことは、
ヒーローは絶対にしない。

小さい頃、
俺は気が弱く、友だちがなかなかできなかった。
そんな俺を支えてくれたのが、正義の味方のキャラクターだった。
大人になって、俺が新しい正義の味方を描くことになって本当にうれしかった。
何かと不安なことが多い昨今、子どもたちにはヒーローが必要だ。

空は暗い。湿っぽい冷たい風がふんわりと吹いている。
天気予報では明日は雨だと言っていた。
俺はカーテンを閉めて、お茶をいれるためにキッチンへ行く。
そして、
水を入れたやかんをIHヒーターにセットしながら、今日、街に出た時に起こった出来事を、何となく頭の中で再生してしまった。

- 偽善者。