ステラクリマの匣庭ー貴方が読むまで、終わらない物語ー



ミザールは静かに、言葉を奪っていった。

「君の声は、僕のためにあるんです。誰かに言葉を渡す必要はない。全部、僕だけのものだから」

ノートに書かれた彼女の記憶と願いが、一頁ずつ破かれていく。

「これで……君にはもう、何も語れないね」

ルカは震えながら、彼の腕を取った。

「言葉は、誰かのためじゃない。私のためにあるの」

彼は最後の一頁を、彼女の喉元に当てるようにして差し出した。

「……じゃあ、君の言葉で、僕を殺してくれたらいい」



メグレズは幻想を囁き続けた。

「ねぇ……君、前世でも僕と一緒だったんだよ。忘れてしまっただけ。思い出してよ。ね? 一緒にいよう?」

彼は夢の中のルカを抱きしめ、今のルカを無視し続けた。

「君が僕を拒んだら……それって、存在否定だよ?僕は消えてしまうよ」

ルカは、彼の幻想の頬を撫で、囁く。

「なら、消えて。今の私の世界に、あなたはいない」

メグレズは虚ろな笑みで、光を渡した。

「……君はやっぱり優しくない」



最後に残ったのはフェクダ。彼はずっと見ていた。

手帳を開き、無表情で言う。

「君は、そろそろ泣くと思ってた」
「でも、泣かないね。……じゃあ、このゲーム、終わりかな」

彼の指先が、自分の脳の側面に触れる。

そのまま指を差し込んで、ルカに“時間”を刻む小さな光を差し出した。

「僕が持ってた“記録”を全部壊しても、君の未来は戻らないよ?」
「それでも……君は進む?」

ルカは黙って、光を受け取った。



こうして、彼女はすべてを取り戻した。

血と涙と呪いにまみれた、己の“心”を。

彼らは泣き叫んだ。けれど、それは愛ではなかった。ただの渇望であり、飢えであり、執着の結晶だった。

ルカは振り返らない。

今やっと、自分が自分であると感じられるのだから。

――星に還るために。星である前に、人で在るために。