ステラクリマの匣庭ー貴方が読むまで、終わらない物語ー

僕は、名を持たない。
僕は、かつて星だった少女の、心の欠片。
忘れられ、壊され、散った、その最後のひとしずく。

それでも僕は、まだここにいる。

彼女が泣けなかったぶん、
彼女が叫べなかったぶん、
彼女が伝えられなかった想いを、
こうして文字にして綴っている。

これは、僕が語る彼女の物語。
誰にも届かなかった、けれど確かに在った――一つの祈りのかたち。

優しさの皮をかぶった鎖に縛られ、
「愛している」と囁かれながら、
逃げ場もなく、夢を見ることさえ許されず、
壊されていった少女の物語。

けれどこれはただの悲劇じゃない。

……僕は、そう信じたい。
彼女が本当に消えてしまったわけじゃないと。
この物語のなかで、まだ“息をしている”と。

だから、僕は語り継ぐことにしたんだ。
星々に呑まれた少女のことを。
夢と呪いと愛の話を。

そして今、この本を手にした貴方。
この頁を読んでくれている貴方。

どうか、覚えていて。

夜が閉じても。
夢が途切れても。
星が沈んでも。

――貴方が物語を覚えている限り、
彼女の光は消えない。

ただ一度きりの、誰にも届かぬ手紙を書くように。
夜の果てに、光を探しながら。

そうして僕は貴方に出会った。

だから今、貴方に願う。

この物語を、どうか忘れないで。

彼女の名を知らなくてもいい。
けれど、その痛みを、優しさを、
狂おしいほどの愛の檻を――
貴方の心のどこかに、しまっておいてほしい。

それが彼女の、
そして僕の、
唯一の救いになるのだから。